現場ログ工場で働く人の、転職と資格の話

休まないケガでも、労災は使える
——通院だけで済むときの手続き

指を挟んだ。転んで手をついた。荷物を持ち上げたときにひねった。 病院には行くけれど、次の日も普通に出勤できる。 工場のケガで一番多いのは、たぶんこの手のものです。

このとき、「休んでいないんだから労災じゃないだろう」と考えて、 窓口で健康保険証を出したり、自分の財布から払って終わりにしたりする人がとても多い。 結論から書くと、それは損をしています。労災保険は、休んだ人のためだけの制度ではありません。

1. 労災保険は「休んだとき」の制度ではない

まず、労災の給付は一種類ではありません。この記事に関係するのは次の2つです。

「何日以上休んだこと」という条件がついているのは、後者だけです。 治療費のほうにその条件はありません。 仕事中のケガであれば、通院1回で終わっても対象になり、 労災と認められれば治療費の自己負担はゼロになります。

「軽いから労災にするほどでもない」と言うときの「軽い」は、 休業の話をしているのであって、治療費の話ではありません。ここがずれたまま、 毎年たくさんの人が3割や10割を自分で払っています。

2. 休まないと出ないのは「賃金の補償」の部分だけ

休業(補償)等給付が出るのは休業4日目からで、1日あたりの金額は次のとおりです。

1日あたりの支給額給付基礎日額×80%
80%休業(補償)等給付60%休業特別支給金20%

最初の3日間は待期期間と呼ばれ、労災保険からは出ません。 ただし業務災害の場合、この3日分は会社が労働基準法にもとづく休業補償 (1日につき平均賃金の60%)を行う義務があります。 「最初の3日は自腹」ではなく、出す先が会社に変わるだけです。

つまり、休まないケガで受け取れないのは賃金の補償だけ。 治療費と通院の分は、休んでいようがいまいが同じように対象です。

3. 病院で最初に言う一言で、あとの手間が決まる

やることは単純で、受付で健康保険証を出す前に「仕事中のケガです」と言う。これだけです。

ここで健康保険証を出してしまうと、あとで健康保険と労災の間で付け替える作業が発生します。 取り返せますが、手間は確実に増えます。すでに払ってしまった場合の戻し方は「仕事中のケガに健康保険は使えない|10割払ったお金の取り戻し方」に書きました。

4. 「報告しなくていい」と「労災を使わなくていい」は別の話

ケガの話をすると、会社側からこう言われることがあります。 「4日も休まないんだから、報告するような話じゃない」。 前半は、条件つきで正しい。会社が労働基準監督署長に出す労働者死傷病報告は、休業日数で扱いが分かれます。

休業日数様式提出のタイミング
4日以上(死亡を含む)様式第23号遅滞なく
4日未満様式第24号四半期ごとにまとめて
休業なし(不休災害)様式第24号の対象外

様式第24号の提出期限は、1月〜3月・4月〜6月・7月〜9月・10月〜12月に発生した災害について、 それぞれの期間の最後の月の翌月末日まで。なお2025年(令和7年)1月1日から、労働者死傷病報告は電子申請が義務化されています (パソコン端末を所持していないなどの事情で困難な場合は、当分の間は書面も可)。

問題は後半です。報告書を出すかどうかは会社側の義務の話であって、 本人が受け取る治療費の給付とは別の話です。 「報告するほどの話じゃないから、病院代はこっちで現金で出しておく」という収め方をされると、 会社は紙を1枚減らせますが、あなたの側は記録も給付も消えます。 報告義務の有無を、労災を使わない理由にしないでください。

5. 「支障はない」と言った日から、2年の時計が動く

立て替えた治療費(療養の費用)の請求権は、費用を支出した日ごとに、2年で時効になります。 「様子を見てから考える」と領収書を引き出しに入れておくと、請求権のほうが先に消えます。

そしてもう一つ。その場は動けるケガでも、しばらく経ってから痛みが残ることがあります。 最初に労災として処理されていれば、治療の続きはそこにつながります。 自腹で終わらせていると、つながる先がありません。労災にしておくのは、今の治療費のためだけではないということです。

やることを順番に

  1. 病院の受付で、健康保険証を出す前に「仕事中のケガです」と言う
  2. その病院が労災指定かどうかを聞く(指定なら様式第5号、指定外なら様式第7号)
  3. 休んでいなくても、会社に報告する。「支障ありません」と言うのは、報告してから
  4. 領収書を全部残す(通院の分も)。療養の費用の請求は2年で時効
  5. 会社が渋っても、請求書は本人が労働基準監督署に出せる。 労災かどうかを決めるのは会社ではなく監督署。 迷ったら労災保険相談ダイヤル(0570-006031)でも聞ける

この記事は厚生労働省・都道府県労働局の公表資料をもとに、現場での経験を添えてまとめたものです。 個別の事案の判断は、所轄の労働基準監督署の判断が優先されます。 制度の内容は改正されることがあるため、手続きの際は最新の様式と案内を確認してください。

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